自由民主党養豚農業振興議員連盟総会 養豚農業の振興に関する要請
食料・農業・農村基本法が本国会で改正に向けた審議されることから、(一社)日本養豚協(JPPA)は養豚農業振興議連総会開催を踏まえ、要請書を提出しました。 総会は午前8時から衆議院第1議員会館「多目的ホール」において開会され、自民党養豚農業振興議連から森山裕会長、葉梨康弘幹事長、伊野俊郎事務局長、神田潤一事務局次長他議連議員44名、代理出席16名が出席されました。 JPPAから香川雅彦会長、塩澤英一会長代理ほか生産者関係者18名が出席し, 開会に際、森山 裕会長、葉梨康弘幹事長から挨拶がありました。
≪森山会長挨拶≫
本国会で農政の憲法といわれる食料・農業・農村基本法の改正の成立は急務である。食料安全保障で最も重要なことは農家が意欲を持って再生産に取り組めるかであり、生産したものが適正な価格で販売できるかがポイントとなる。輸入に頼らざるを得ない飼料は価格が高騰した場合の安定制度の在り方について議論が始まったところである。飼料メーカーには合理化の努力をしてもらい、畜産農家が安心して仕事に励めるよう制度をしっかりする必要があり様々な機会で議論を深め纏めたい。 養豚では飼養衛生管理の問題が極めて重要。韓国ではASFが蔓延しており、韓国との交流が盛んに行われる昨今、九州ではゴルフ等で多くの観光客が来日し農水省や出先の機関も含め水際対応は油断なく取り組んでいるが養豚農家も飼養衛生管理に努力してもらいたい。本日の会議で様々な意見・要望を聞き、政策に反映できるよう努力していきたい。
≪葉梨幹事長挨拶≫
数十人の行政書士と地元(茨城県)で情報交換をした。農業人口が減る中、耕作放棄地を活用すべきという声が多かった。食料安全保障の観点から農地は現在不足している。このような状況下、農地を確保しながら担い手を確保し育てていくことが重要であり、畜産業でも同じことが言える。国民(生産者以外の方も含め)に対して生産基盤を維持することが如何に必要かをしっかり説得することが非常に重要である。食料・農業・農村基本法が大改正になり、基本計画も変わる。それに併せ養豚農業振興法の基本方針も見直しになると思うので、その前段として議連を開催し意思統一を図りたい。日本の養豚生産基盤強化の必要性を国民に対して発信をしていく。そのうえで生産者が持続可能な生産基盤を確立できるよう、養豚農業振興法の基本方針をどう組み立てていくか一緒に考えていきたい。 議事に入る前に農水省から「養豚をめぐる情勢について」資料により説明がありました。
渡邊洋一畜産局長の挨拶後、関村静雄審議官から「養豚をめぐる課題への対応」について以下の説明が行われた。
❉ 豚肉の需要動向 ❉ 豚肉の価格推移:高騰する輸入豚肉の影響で国産豚肉の引き合いが高まり堅調に推移している。 ❉ 豚の飼養戸数 : 農家戸数は減少傾向だが1戸当たり平均飼養頭数は増加傾向で大規模化が進展している。 ❉配合飼料価格に影響を与える要因について❉ 配合飼料価格安定制度 :配合飼料の高騰に対し配合飼料価格安定制度により激変緩和を行い畜産経営の影響を緩和。令和3年1月から3年間にわたり総額5,700億円を超える補填を行ったが、その財源として約1,200億円の借入を行っている。持続的な仕組みの構築に向け検討会を開催し制度の在り方の議論を開始した。 ❉ 配合飼料工場の立地条件 ❉ 飼料増産・安定供給対策 ❉豚肉経営安定交付金(豚マルキン) :近年は豚枝肉価格が堅調であることから平成25年度以降発動はしていな状況。 豚マルキンの標準的販売価格と標準的生産費 :豚マルキンの計算の基になる標準的販売価格と標準的生産費の推移を用意した。棒グラフが標準生産費を示し徐々に増加してきている。一方折れ線グラフの標準的販売価格との差額の部分が現在縮まって来ている状況にある。 ❉国内資源を活用した肥料への転換。
安岡澄人消費・安全局長:豚熱及びアフリカ豚熱対策をめぐる情勢について説明。
豚熱の発生の経過 :昨年8月末に佐賀県でCSFが発生したが九州において野生イノシシに発生が確認されていない状況が続いている。ワクチン接種は短期間で接種が終え続発もない状況。一方で今年2月に栃木県で発生しているので引き続き飼養衛生管理そしてワクチン接種をしっかり進めていきたい。養豚場における分割管理の適用イメージ :殺処分を減らすためには分割管理の導入が非常に鍵になる。養豚場に導入を進めるためJPPAとも議論を行っている。 養豚場における分割管理を行った場合の効果(イメージ): 繁殖部門を分離すれば繁殖基盤を残すことが出来、肥育の所を分割すれば殺処分を大幅に減らすことが出来るメリットがある為、取り組みを進めていきたい。
イノシシ用豚熱経口ワクチン及び豚熱マーカーワクチンの国産化: ドイツ製に依存していた経口ワクチンの国産化を進めている。補正で増産のための体制整備の予算も確保、来年度中に国産化を進めたい。更にはマーカーワクチンの研究開発の事業を進めている。候補株の開発までは進んでいる。安全性の確認など更に研究が進み実用化に向けて進めている。
農水省からの「養豚をめぐる課題への対応」について説明を聞くJPPA執行部
≪JPPAから要請書の提出と内容の説明≫
香川会長: 食料・農業・農村基本法の改正等、重要施策の方向性の見直しにあたり、養豚議連総会においてJPPAからの意見・要望を聞いていただく機会を与えてくださったこと、昨今の急激な飼料価格高騰や九州での豚熱発生など、我が国畜産の危機に際し迅速かつ的確な対策に感謝の意を述べた。なお養豚農家の戸数が減少することにより互助基金の農家負担が大きくなることをご理解頂きたいと述べた。
自民党養豚農業振興議員連
会長 森山 裕 先生
養豚農業の振興に関する要請 日頃より我が国養豚農業の振興にご尽力を賜り、心から感謝を申し上げます。 最近における急激な飼料高騰や九州での豚熱発生など、我が国畜産の危機に際しましては迅速かつ的確な対策を講 じていただき、たいへんありがとうございました。改めてお礼を申し上げます。 国会においては食料・農業・農村基本法の改正が審議されると伺います。議員立法で制定頂いた養豚農業振興法についても「養豚農業の振興に関する基本方針」の初めてと なる改正が令和6年中に検討され、重要政策の方向性が見直されると考えられます。養豚農家戸数は前年より6.1%、5年間で24.6%と他の畜種を上回る減少率となっており、日本の養豚農業は生産基盤の危機を迎えています。また、韓国におけるアフリカ 豚熱の感染拡大をはじめ、家畜衛生問題が経営に与える影響は極めて大きくなっています。今後とも美味しくて安全な豚肉を国民の皆様にお届けするよう、養豚農業の安定的な発展に特段のご配慮をもってご支援頂きたく、以下の要請をさせて頂きます。 記 1.食料・農業・農村基本法の見直しに沿った養豚農業の振興 (1)食料安全保障を抜本的に強化するためには、他の農畜産物と同様、国内養豚生産基盤の確立が基本となります。国内生産基盤と自給率が維持・増進されるよう基本法の見直しをお願いいたします。 (2)畜産物の価格安定の仕組みを検証し、生産者が経営を維持でき、消費者が適正な価格で畜産物を購入できるよう、適正な価格形成の実現に向けた検討をお願いいたします。 (3)豚肉の国内消費及び輸出を拡大するため、豚肉の栄養や美味しさについて国内外への発信を強化すると共に我が国の宝である育種資源の維持・確保への支援をお願いします。また、畜産物の衛生条件など輸出障壁の早期解消をお願いします。 (4)飼料自給率の向上と循環型社会の確率のため、飼料米や子実トウモロコシなど国産飼料の低コスト安定供給を一層進めてください。また、エコフィードの原料が将来にわたって安定確保できるよう、ご配慮をお願いします。 2.飼料、燃料、光熱費など生産費用高騰へのセーフティネット 飼料価格のみならず燃料、光熱費、畜舎建築資材・費用等の高騰、防疫強化のための負担増により、厳しい経営状況が続いています。配合飼料価格安定基金制度の長期の視点に渡った安定的な運用や、肉豚経営安定交付金制度(豚マルキン) などの機動的な発動、地域間格差の是正等により、万全なセフティネットを講じていただくようお願いします。また、使いやすい制度資金の充実をお願いします。 3.衛生・疾病対策の強化 (1)2018年に国内で発生した豚熱は、飼養衛生管理の徹底とワクチン接種に努めていますが、2月に半年ぶりの発生が飼養豚で確認されました。ワクチン費用の低減や豚肉輸出再開のため、豚熱清浄化に向けた手法と時期についてのロ―ドマップを作成し、国が前面に出て、全ての関係者が強調して取組んでいく必要があります。また、清浄化に向けたステップを確実に進めるため、マーカーワクチンや国産経口ワクチンの実用化、野生イノシシ対策、地域防疫の取組や防護柵・防疫施設機器等へのご支援をお願いいたします。 (2)昨年末に韓国釜山広域市の野生イノシシでアフリカ豚熱の感染拡大が確認されたことは生産者にとって大きな脅威です。国内侵入を決して許さないよう、水際対策を一段と強化してください。 (3)豚熱やアフリカ豚熱だけでなく、各種伝染性疾病のまん延は豚肉の生産コストを増嵩させ、我が国の食料安全保障を危うくするものです。各種疾病に有効かつ低価格なワクチンの研究開発と実用化をお願いいたします。 4.と畜場・飼料工場など畜産インフラの整備 と畜場や飼料工場は、将来にわたって安定的に畜産経営を営むために不可欠な畜産インフラですが、施設の老朽化が進み、安全な豚肉・牛肉の消費者への安定供給に大きな不安材料となっています。これら施設が合理化・高度化等を進められるよう整備の促進をお願いします。また、飼料や家畜などの円滑な物流を確保するための支援をお願いします。 5.循環型社会や低環境負荷社会を実現するための畜産環境対策 (1)みどりの食料システム戦略を推進する観点からも家畜堆肥等の有効利用がますます重要となっています。農家のマッチングなど耕畜連携による資源循環促進へのご支援をお願いします。 (2)排水基準強化等の環境規制が強まる中で、低コストで有効な肥料利用、汚水 処理、臭気対策等の研究開発と現場への実装に対する支援の強化をお願いします。 6.自然災害からの復旧復興と災害に強い生産基盤の構築 令和6年能登半島地震により大きな被害を受けた養豚施設・設備を迅速に復旧するための資金援助(無利子・無保証資金融資)と税制優遇措置をお願いします。また、自然災害による被害影響を最小限にとどめるよう、国で平時から飼料や燃料を確保するとともに、農家に有利な保険加入を促進して下さい。
2024年 3月19日 一般社団法人日本養豚協会(JPPA) 会長 香川 雅彦
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≪国会議員からの質問に対する農水省の回答(一部分)≫
参議院議員(茨城)上月良祐先生:
農水省からの「豚肉の需要と価格推移」について価格が堅調に推移という説明に対し違和感を感じる。価格とはコストとの比較において評価されるべき。資料12頁「豚マルキンの標準的販売価格と標準的生産費の推移」の説明において標準的販売価格との差額の部分が縮まって来ている部分を見る必要があるのではないか。(資料に記載されている)棒グラフ(生産費)と線グラフ(販売価格)の間の幅が利益となるが現在は異常な幅の狭さであり半分くらいは赤字になっているのではないか心配しているし、農水省の説明に危機感が足りない。4頁「豚飼養戸数・頭数の推移」では農家戸数が非常に減少し農場の大規模化と言われるが小規模と大規模の共存が必要ではないか。利益を出すためには価格転嫁が重要であり、新規就農者を増やすためにも価格転嫁の取り組みは必要。農地も転用や農振除外という声が多い。農水省は生産だけでなく加工・流通・販売にもアプローチする必要がある。
≪農水省からの回答≫ 渡邉畜産局長
: 上月先生ご指摘のマルキン制度についてコストとの比較でどうかという指摘、しっかりマルキンを運用していきたいと思う。生産者からも指摘はあり見直すべきところは見直しをするように考えている。価格形成について価格形成の立ち上げをしたところ。豚の場合はセリで豚の価格が決まり指標にたっていることもあり一筋縄ではいかない。どのような状況で価格が形成されているか把握し何が出来るかしっかり考えて来たい。在外の体制、豚についても目配りを出来る人材をやっていきたいと思う。
衆議院議員(北海道)和田義明先生:
「豚マルキンの標準的販売価格と標準的生産費の推移」のグラフについて、粗利率の減少は問題であり、将来成立しないと端的に表していると思う。豚の価格がセリで決まるにしても、その先の小売業が重しになっているところが深刻な問題。農水省だけでなく経産省とも公正取引について議論すべき。だが豚肉の値段が上がったことによって輸入品の方が売れてしまうのは問題となる。食育基本法の改正も行われると思うが、消費者を教育し、消費や買い物は日本の農業や日本の食料を守る未来の投資だと盛り込むべきだと思う。農水省と経産省と力を合わせて取り組んでもらいたい。
衆議院議員(新潟)斎藤洋明先生:
価格転嫁は非常に重要で是非取り組んでもらいたい。要請書の1-(4)について、販売価格を上げると同じくらいコストを引き下げることは非常に重要になってくると思っている。地元でも耕作放棄地が増えている。特に条件不一致の問題で飼料をもっと作りたいという声があり、飼料自給率の向上のため中山間地域の条件不一致の活用も含めて農水省には総合的な取り組みをお願いしたい。
≪農水省からの回答≫ 渡邉畜産局長
価格転嫁は大変重要なことで、(価格が)確かにセリで決まることはあるが消費者の理解の醸成が非常に大事である。中央畜産会から生産コストが高騰していて制約があると周知をするような情報提供がある。基本法の検証と見直しをしていく中で過度に輸入飼料に依存しないような養豚経営を実現しようと国産飼料生産、利用の拡大を大きな方向として位置付けている。それに向けて対策、補正予算も含めてしっかり取り組んでいく。
❉森山会長から閉会のご挨拶
団体からの貴重な意見を聞き真摯に受け止め、時間のない課題もあるため早急に対応をする。また農水からも様々な意見を受けた。議連は農水と共に生産者の意見を踏まえ、予算や法律の面でしっかり担保できるように努力する。
今後も色々な意見を聞く機会を作りたいと思うと挨拶。